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ひなげしの花

永井 和子 作詞

演奏データ
歌手 ささい はるみ
朗読 永井 和子
伴奏 佐久本 大輔(Vc)
仲間 直美(Pf)
神野 和博(Gt)
編曲 神野 和博
演奏日時 2009. 6. 6
UP日時 2015. 7.20


わたしは ひなげしの花

怒りと悔しさに燃えて朱(とき)色に染まった ひなげしの花

ヒトは獣とちがうから銃を持てば撃ちたくなる

撃てばいのちが消える

わかっていても やがて殺すことになれてしまう

それが銃を持つということ

男も女もいくさになれば殺すだけのいきものになる

 

私は母子家庭に育ちました。弟が二人います。

母は女手ひとつで私たち三人を育てるため働きぬきました。

高校を卒業したら、人の役に立つ仕事につきたいと願っていました。

自衛官募集のことを知りました。

さっそく自衛隊へ仕事の説明を受けに行きました。

阪神・淡路大震災などで救援や支援活動にけんめいな、

隊員の方々の映像を見て感動しました。

自衛隊に入る決心をしました。

入隊の宣誓書を読み署名した日の感動をはっきり覚えています。

 

入隊して身体と心で知った自衛隊は、

私が考えていたものとは全くちがうものでした。

毎夜のように酒を飲み荒れる隊員。

女性隊員は男性からセックスの対象と見られていました。

私が加害者からの深夜の呼び出し電話に応じたのは、

それが最初は私の後輩の女性隊員にかかってきた電話だったからです。

私が、後輩の隊員の面倒を見る立場だったからです。

加害者の上司は深夜のボイラー室勤務だったにもかかわらず、酔っていました。

酔って眠らせたまま去るには事故が起きる不安がありました。

目覚めた上司は外に出られないよう鍵をかけてしまいました。

私に性行為をいどんできました。

力ずくで服を脱がされ、裸にされ、性行為を強要してきました。

 

抵抗しました。抵抗しながら私の頭にちらついていた思いは怯えでした。

彼は上司でした。

上司の命令には従う、というのが自衛隊の中での常識でした。

明日には同じ職場、同じ部屋で彼と顔を合わせなければならない。

周囲の男性隊員の好奇の視線にさらされることに耐えなければならない。

私は、私のなかにある怯えに気づきました。

私が抵抗しているのは、私自身のその怯えでした。

それでも最後まで抵抗しぬいた力は、

私のなかにあった人間としての誇りだったと思います。

 

私に暴力をふるい、性行為を強要した上司の息子は、

私の弟と同い年だと聞きました。

私が受診を許可されたのは、一か月半も過ぎてからでした。

私が男性隊員の立ち合いを拒否したからです。

受診まで時間がありすぎたので正確な診断はできませんでした。

私が訴えたことで隊内での嫌がらせがつづきました。

「服務違反」を理由に退職も強要されました。

 

裁判が公表されるにつれて隊内の空気が変わってきました。

上司が、私の入れたお茶を飲んでくれるようになりました。

私は、宣誓書の一字一句を忘れてはいません。

平和憲法のおかげで軍事裁判ではなく、いま、私はこの法廷に立っていられます。

傍聴席に揺れている朱(とき)色の波が私を励ましてくれます。

 

わたしは ひなげしの花

いのちを守る夢 壊され朱(とき)色に燃えた ひなげしの花

ヒトは獣とちがうから力を持てばふるいたくなる

ふるえば人間をなくす

わかっていても やがて殺すことになれてしまう

いつか自分を壊してしまう

男も女もいくさになれば壊れたいきものになる

 

ひなげしの花よ 顔上げて歌え

人間が人間である生き方 守るために

朱(とき)色のひなげしの花よ 顔上げて歌え

愛を 平和を 守るために歌え

いのちの尊厳 守るために歌え

     2008.12.27